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「核抑止力論」、終わりの始まり

The beginning of the end of “nuclear deterrent theory”

 人類史上、原爆による惨状はヒロシマ、ナガサキから始まった。
世界はこれを省みることなく、早くもその翌年1946年アメリカがビキニ環礁で戦後初
の原爆実験を行う。1949年ソ連が、次いで英国、フランス、中国と続き、水爆実験も
並行して行うにいたる。
2000回に余る核実験を繰り返し、いまや一万数千発の核をため込む。
うち米、ロ両国で93%、1万4000発Arms Control Association2017)を保有する。

主役の米、ロ、とりわけわが国と一体のアメリカの核戦略の推移を中心にたどれば、
世界の動向が見えてこよう。近年のアメリカの核戦略は、オバマ大統の任期と重なる。
精査するほどにオバマ氏に対する大概のイメージとは裏腹な「不都合な真実」を知る
ことになる。このプロセスで、「核抑止力論」こそが、今日の核クライシスの真髄
あることが鮮明化してくる。


(その1)核軍縮をサボタージュ、核保有5大国の核独占強化



1970.03.05
ことの始まりは、1970年に国連で採決された「核拡散防止条約」(NPT)にさかの
ぼることになる。

NPTは、それまでに核兵器を持っていた米、ソ、英、仏、中の核保有5大国に核の
保有を認めるが、これ以上の核の拡散を防止するために、5大国以外の国の核保
有を厳禁するという条約だ。しかしこの条約は、核保有5大国の既得権を固定化
する不平等条約だとする批判が当初から強かった。

同時に条約は、「核保有国は核軍縮に誠実に努力する」ことを義務づけた(第6条)。

その核軍縮はどうか?あれから50年近くたった今日でも、核保有5大国で1万数
千発の核兵器を保有する。

当初から強く反対していたインドは条約に署名せず、早くも4年後の1974年に核
実験に踏み切る。続いて隣国のパキスタンが追随する。イスラエルも加盟せず核を
保有し、2003年には北朝鮮がNPTを脱退し、2006年に核実験をするにいたる。

こういったNPTの破綻は、核保有を認められた5大国が、それに代わる義務として課さ
れた核軍縮の実行をサボタージュしてきたことにあるだろう。
核軍縮が目に見えて進行し、その本気度が核保有台数の減少に転じていれば、後発の
核保有4カ国の保有理由をクジクことが出来たのではないか。
核保有5大国はひたすら核実験を繰り返し、義務づけられた核軍縮をサボタージュす
ることによって、反発する諸外国の核保有を制御する論拠を失ったことになろう。

自壊を始めて久しいNPTは、消え失せるほかなかろう。



(その2)オバマ大統領「プラハ演説」〜「核なき世界の実現」を提唱!



2009.04.05
NPT体制下で進むはずの核軍縮がこう着する中、アメリカ新大統領オバマ氏が
登場した。
2009年4月5日、チェコのプラハにおいて、かの有名な「プラハ演説」を行った。
着任2カ月余りの新鮮アピールは世界に歓迎された。
核軍縮の行き止まりをどう打開するかに対応するメッセージを発した。

核兵器所持国として、
また核兵器を使ったことのある唯一の国家として、
アメリカはそのような行動を起こす
道義的責任があると考えます。

「核兵器なき世界を実現する行動」を約束した。
彼の力強い「Yes we can」を、世界は受け入れたはずだ。
この日の朝、北朝鮮が長距離弾道ミサイルを発射した。オバマ演説はこれに触れ
「われわれの行動が必要であることを浮き彫りにしています」と述べている。

しかしオバマ演説は、この「核兵器なき世界の実現」というアッピールに続けて、
いきなりそれに歯止めをかける文言を発っしていることを記しておきたい。

いわく〜、
「間違えてはいけません、こうした兵器が存在する限り〜米国は敵国を抑止するために
安全でしっかりした、効果的な保有量を維持します。そしてチェコ共和国を含めた同盟
国を防衛することを保証します」。

なぜここで「核抑止力論」が飛び出してくるのか?

相手の核戦力を抑止する「効果的な保有量」を保持するという。核抑止力論の繰り
返しそのものである。この「核抑止力論」こそが、核兵器の際限なき相互エスカレーショ
ンを推進してきた基本原理であり、核軍縮をとどこうらせてきた元凶であるにもかかわら
ずである。
この明言は、オバマ氏の「核兵器なき世界の実現」を、白紙化するものとなろう。
根本的に矛盾・逆行するものであり、自らアキレス腱を抱えていることを自己宣言した
も同然である。



(その3)「核なき世界の実現」を、一年にして手放す!



2010.04.08
プラハ演説からちょうど一年目、2010.4.8、オバマ大統領は同じチェコのプラハに
おいて、ロシアのメドベージェフ大統領と、戦略核弾頭の配備数をそれぞれ1550発に
制限するという「新戦略兵器削減条約」(新START)に署名した。
この削減数は、START1(第一次戦略兵器削減条約)によって定められた米ロそれ
ぞれ6000、5500発を、8年後までに1550発に削減しようとするもので、昨年のプラハ
演説の「核なき世界の実現」の有言実行ぶりを世界に印象づけるものとして歓迎された。

しかし、発効するためには議会の承認が必要であった。当時のアメリカ議会は共和党
が多数を占めており執拗な反撃にさらされる。共和党は、ロシアはすでに戦略核兵器
を削減しても、それに替わる戦術核兵器の近代化に早くから取り組んでいるとして、
核抑止力のバランスが崩れることは明らかだとする強力な反対を受ける。
新STARTを受け入れるなら戦術核兵器の近代化は不可欠として予算請求まで要求
される。

この共和党の要求こそは、アケスケな「核抑止力」強化論そのものである。にもかかわら
オバマ大統領は、向こう10年間に核兵器近代化と、核インフラ投資のために800億
ドル(95兆円)を投資すると約束する。
800億ドルの拠出は「ブッシュ政権も出来なかった大幅な増額です」と自らの決断を
アピールするにいたる。民主党からさえ、議会内外でもブーイングが起きている。

これはプラハでの「核兵器なき世界の実現」を、早くも一年にしてオバマ氏自ら放棄
たことを意味する。

戦術核兵器の近代化は、核兵器の小型化、精密化、命中精度や
ステルス性(レーダー・スルー)、運搬システムの能力向上を図り、
「より使いやすい核兵器」に切り替えていく戦略だ。
アメリカは直ちに、NATOに配備中の核ミサイルB61を中核に、
核近代化を全開していくのである。

(その4)戦術核兵器の近代化は、「核実戦論」への転換!



2014.03.18
ロシアがクリミア半島の一方的編入を宣言する。
以降、米、ロの関係が急速に悪化する。両国関係は「東西冷戦後では最悪」とさ
れた。ウクライナ危機は新たな核兵器近代化に拍車をかけていく。
反対に核兵器削減(核軍縮)交渉はとまる。

これを契機に、核兵器の近代化問題は「核抑止力論」からスライドし、核を実戦に
使う「核実戦論」へと大きく口火を開いていくのである。

戦術核兵器の近代化は、使いやすい高性能核兵器を作り出す。それを多数保有
すれば「核抑止力」を高めるとアピールされてきたが、ウクライナ危機は従来の
「核抑力論」を変質させていった。
現実に即戦力として使いやすい戦術核兵器という凶器が、リアルに配備されていく。

プーチン大統領がウクライナにおける核使用の実際に触れる。
「われわれはそうする準備が出来ていた」と語ったことが報道された。

対するアメリカは、既存の核兵器B61を刷新し、史上最悪の殺傷力、驚異的命
中精度を持つとされるB61-12型を、B52ステルス爆撃機に搭載した新戦略を固
め、NATO各国の実戦装備を一新していった。

オバマ氏の「核なき世界の実現」というプラハの夢はイズコに〜?
自ら進める新たな核兵器近代化戦略によってツユと消えるさまを、まざまざと見せ
つけられることになる。

 オバマ氏のプラハは、名実ともに終わった。


(注記)2018.02.02〜アメリカのトランプ大統領が、今後5〜10年の新たな核戦略
の指針として示した「核態勢の見直し(NPR)」を発表した。
多くの報道は、この戦略はオバマ前政権の戦略からの転換と報じているが情緒的な
論評といえよう。上述のように、実際はオバマ氏の核戦略を確と踏襲、拡大し、米国
による核抑止力の実効性の強化をリアルに見せしめている。



(その5)オバマ大統領の広島訪問〜「架空の物語」を残す



2016.05.25
オバマ大統領が、広島を訪問した。
プラハで「核なき世界の実現」を宣言してから7年が経過していた。
その間に、プラハの夢とは真逆の核兵器近代化による新たな核恐怖の均衡
が米、ロの間に生み出されていた。

オバマ氏は広島訪問において、なにを語ろうとするのか世界は注目した。
広島演説はこのような文言で始まる。

「71年前、雲一つない明るい朝、空から死が落ちてきて、世界は変わった。
閃光と炎の壁は都市を破壊し、
人類が自らを破壊するすべを手に入れたことを実証した」
(翻訳・共同通信)。

Seventy-one years ago, on a bright cloudless morning,
death fell from the sky and the world was changed.
A flash of light and a wall of fire destroyed a city
and demonstrated that mankind possessed the means to
destroy itself.

不思議なことに、ここには「5W1H」が存在しない。とりわけ文言の骨格をなす
「誰が(Who)、どこで(Where)、何をしたのか(What)」が不在だ。

「空から死(death)が落ちてきた」のではない。「空から原爆(atomic bon)が
落ちてきた」のである。
「〜炎の壁は都市(a city)を破壊した」のではない。「〜炎の壁は広島(Hiroshima)
を破壊した」のである。
「人類(mankind)が自らを破壊するすべを手に入れたことを実証した」」のではない。
「アメリカ(America)が人類(mankind)を破壊するすべを手にいれたことを実証した」
のである。

なぜ〜「アメリカ」が「広島」に「原爆」を投下した〜という事実さえ語らなかったのか。
広島訪問こそ、プラハ宣言をふまえて、「核兵器なき世界を実現する」道義的責任に
アメリカがどのように取り組んできたのか、取り組んで行くのかを語る絶好のステージで
あったはずだ。
しかし広島訪問の前に、すでにオバマ氏のプラハは終わっていた。

語られることばが現実と結ばず、雲のように広島の空を流れるだけだ。
その空の下に広がっていたのは、1945年の焦土と化した広島、それから70余年にわ
たる耐え難い苦しみの日々は、物語の雲に覆われて見えることがない。

オバマ演説は、広島の深い傷心に応えたか?

元広島市長の平岡敬氏は語る。
「オバマ大統領は再び『核兵器のない世界』に言及したが、手放しで喜んではいけない。
米国が「原爆投下は正しかった」という姿勢を崩していないからだ。原爆投下を正当
化する限り、「核兵器をまた使ってもいい」となりかねない。私たちは広島の原爆慰霊
碑の前で「過ちは繰り返しませぬ」と誓ってきた。原爆を使った過ちを認めないのなら、
何をしに広島に来たのかと言いたい」(毎日新聞2016年5月28日)

オバマ氏が広島演説で、雲の物語を語ったのには理由があった。
「アメリカが、広島に、原爆を投下した」と語って演説を始めると、オバマ演説は
シリアスな現実対応を語ることが求められる。

現実は、すでにオバマ氏の核兵器近代化による核実戦配備が常態化していたことが、
真実を明かしていよう。



(その6)国連加盟国3分の2の多数で「核兵器禁止条約」を採択



2017.07.07
ニューヨークの国連本部で開かれた国連会議で、「核兵器禁止条約」が国連加盟国
193カ国の約3分の2にあたる122カ国の賛成多数で採択された。

原爆投下から70余年にして、初めて核兵器を違法化する条約が登場した。
採択の瞬間、会場は拍手と歓声が鳴りやまなかったと伝えられる。

「核兵器禁止条約」は、これまでの安全保障に関する取り決めが、いずれも国家間レ
ベルの安全保障であった考え方をくつがえした。まったく対極の「核に殺られる側の人
間一人ひとりの視点」から核を見つめ直す考え方に転換した。言い替えると「被爆者」
が当条約の中核に存在していることを意味するだろう。
条約前文は「被爆者にもたらされた受け入れがたい苦しみと被害」と記述する。被爆
者は条約の検討会議の当初から参加し被爆の実相を訴えていた。

この「受け入れがたい苦しみ」の一端をえぐる記録がある。
8月6日の原爆投下の日から、広島55万人のビッグデータをもとに、被爆者の原爆死
〜原爆の閃光と熱風にさらされた身体の、特異ないまだ見たことのない病理に幾日も
悶えながら死を迎える実態について、直接調査に当たった医師が語る〜

「あらゆる意味で害が大きい。この爆弾というのは軍事目的で使うものではなくて、
一般市民を標的にして一般市民を苦しめる効果の方がはるかに大きいものじゃあな
いかと感じますね。そこまで苦痛をもたらすという爆弾は、おそらく他にないんじゃあ
ないかと思いますね」。(日本熱傷学会元理事・原田輝一医師〜「原爆死ヒロシマ72周年の
真実」NHKスペシャル)。

この現実こそ、原爆が人道と相容れない証左であろう。
長崎市長田上富久氏は、この条約を「ヒロシマ・ナガサキ条約」と呼びたいと述べて
いる。(「平和宣言2017)

「核兵器禁止条約」のなかで、とりわけ注目したいのは、核兵器の使用と合わせて、
核兵器を「使用するとの威嚇」を禁止していることである。詳細な議論のプロセスで提
案され決定されている。(第一条d項)
今日、アメリカと北朝鮮の核兵器の威力をかざしながらの醜態こそが、「核抑止力論」
の醜態に他ならない。
核威嚇を「いかなる状況」においても実施しない禁止条項として規定した。

国連加盟国193カ国のうち122カ国が「核兵器禁止条約」に賛成した。
核兵器廃絶に反対する71カ国は、この時点から、名実ともに世界の少数派となった。
さらにいえば、この「核兵器禁止条約」に参加した122カ国は、これまですべて「核拡
散防止条約」(NPT)に参加していた国々であったことだ。NPTへの長年にわたる失
望の末に「核兵器禁止条約」に大移動したという現実こそが、世界と時代の巨大プ
レートが大きくスライドしたことを物語っていよう。



(その7)「ノーベル平和賞」、被爆者の叫びが人類の叫びに〜



2017.10.06
2017年のノーベル平和賞を、ICAN(「核兵器廃絶国際キャンペーン)が受賞した。

国際法上法的拘束力を持つ「核兵器禁止条約」採択への貢献が評価された。
条約採択への貢献とは、例えば「ピースボート」は、共同代表の川崎哲氏によると、

「2008年から広島・長崎の被爆者と共に船で世界各地を回り、被爆体験を現地の
人々に伝える活動に取り組んできた。参加した被爆者は170人に上る。すでになくな
った方も多い」「受賞理由の中に、核の非人道性への認識を広める活動をしてきた
書かれてあった。それはまさに被爆者の人たちが実際にやってきたことだ」と語って
いる。

かの「核兵器拡散防止条約」(NPT)も、オバマ大統領がとんざした「核兵器なき
世界の実現」の夢も、人類の凶器と化した「核抑止力論」をも一挙にクリアする、核の
存在それ自体を認めない「核兵器禁止条約」が立ち上がった。

「核兵器禁止条約」は、50カ国の批准で発効する。
条約の発効によって、核保有国とその傘下の同盟国は、法的にも人道的にもきびし
く拘束されることになる。

核保有国とその同盟国が、この条約を遵守する日をひとときも早く実現することが問
われる。唯一の被爆国の日本政府はアメリカの傘をかざして、「圧力」一色のブーメラ
ンを飛ばすのみだが、世界のアンカーになる醜態をさらさないことを望みたい。

どの国も核兵器を持たなくなれば、「核拡散防止」ということば自体が、地上から消える。
どの国も核兵器を待たなくなれば、「核軍縮」ということば自体が、地上から消える。
どの国も核兵器を持たなくなれば、「核抑止力」ということば自体が、地上から消える。

「核兵器禁止条約」は、これらすべての虚妄を消滅させ、人間を核から解放する。
条約の発効は、人間がついに核を超えて生きる時代が始まることを意味するだろう。