着る人のいなくなった、衣服たち
Clothes, whose masters had been passed away
広島の原爆資料館を訪れた日。
亡くなった子どもたちの衣服の展示を見ていた。
「あれ、恵子ちゃんがいる」と、ふと思った。
展示の服を着た彼女がそこにいて、笑っていた!
幼い頃、近所にちょっとオシャレな少女がいた。恵子ちゃんといった。毎朝一緒に
学校に行った。ときどきオシャレしてくると、一瞬「よく似合うでしょう?」といった
仕草をして笑っていたのが懐かしい。
とたんに彼女が消えた。
ここはどこだ?
ぼくは寒がりだった。常時ポケットに手を突っ込むクセがあった。熱線で焼かれて
亡くなった男子生徒のツギだらけの服のポケットに、自分の手が入っていた。
懐かしい。〜と思ってはいけない。気持ちが恥じた。〜とたんにぼくもいなくなって
いた。
着る人のいなくなった衣服たちが、いま広島の原爆資料館に展示されている。
多くの人たちが、ぼくらを見詰めている。